退職に必要な貯金はいくらか|出ていくお金を日付で並べて計算する
「生活費の3か月分」「半年分あれば安心」といった目安をよく見かけますが、この数字は自分には当てはまりません。必要額は、住んでいる地域、家賃、扶養の有無、前年の所得、離職理由によって大きく変わるためです。
この記事では、目安の数字を示す代わりに自分の必要額を出す手順を示します。電卓と、直近の給与明細が1枚あれば足ります。
「貯金 ÷ 生活費」で計算すると足りなくなる
多くの人が、貯金額を毎月の生活費で割って月数を出します。この計算には、3つ抜けているものがあります。
1. 退職後は支出が増える
これまで給与から天引きされていた健康保険料・国民年金保険料・住民税が、自己負担に変わります。在職中の「生活費」には、これらが含まれていません。
2. 収入がゼロの期間がある
失業給付は退職の翌日から入るわけではありません。自己都合退職の場合は、待期7日と給付制限を経てから支給が始まります。
3. 住民税は前年の所得にかかる
収入が下がっても、前年分の請求はそのまま届きます。しかも普通徴収に切り替わると、まとまった額の納付書が来ます。ここで計算が崩れる人が最も多くいます。
必要額を出す4つの手順
手順1. 毎月の生活費を出す
家賃、水道光熱費、通信費、食費、交通費、保険料、その他。直近3か月の口座とカードの引き落としを見て、平均を取るのが確実です。記憶で書き出すと、たいてい少なめに出ます。
手順2. 退職後に増える支出を足す
給与明細を見て、天引きされている健康保険料・厚生年金保険料・住民税の額を確認してください。退職後は次のように変わります。
- 健康保険 -- 任意継続、国民健康保険、家族の扶養の3択。任意継続は在職中の保険料の会社負担分も自分で払う形になるため、負担が上がる場合があります
- 国民年金 -- 定額の保険料に変わります
- 住民税 -- 前年の所得に対する額が、普通徴収でまとめて請求されます
手順3. 入るお金と、その日付を並べる
最終給与、退職金(ある場合)、失業給付。重要なのは金額より日付です。とくに失業給付は、離職票が届き、ハローワークで手続きをし、待期7日、給付制限、認定を経てから振り込まれます。
手順4. カレンダーに落として、月ごとの過不足を見る
月ごとに「入る額 − 出る額」を計算すると、何月に一番苦しくなるかが分かります。多くの場合、住民税の納付月と、失業給付が始まる前の月が重なると厳しくなります。
失業給付が入り始めるまでの期間
貯金の必要額を決める最大の要因が、ここです。離職理由によって、待つ期間が変わります。
| 離職理由 | 給付制限 |
|---|---|
| 自己都合退職 | 令和7年(2025年)4月1日以降の離職は原則1か月(令和7年3月31日以前は原則2か月) |
| 会社都合(特定受給資格者) | 給付制限なし |
| 特定理由離職者 | 給付制限なし |
いずれの場合も、受給資格の決定後に待期7日があります。また、離職票が会社から届くまでにも日数がかかり、ハローワークでの手続きと認定日を経て振込となるため、離職日から最初の入金まではさらに間が空きます。
なお、体調不良やハラスメントなどが理由の場合、自己都合に見えても特定理由離職者や特定受給資格者に当たる可能性があります。該当すれば給付制限がなくなるため、必要な貯金額も変わります。判断はハローワークが行うので、資料を持って相談してください。
貯金が足りないと分かったときの選択肢
計算して足りないと分かった場合、打つ手は3方向あります。辞めるのをやめる、という選択肢だけではありません。
1. 出ていく額を制度で下げる
会社都合などの非自発的な離職では、国民健康保険料が軽減される仕組みがあります。国民年金保険料には失業を理由とした特例免除があり、これは未納とは扱いが異なり受給資格期間に算入されます。払えないときに黙って未納にするのが、最も不利な選択です。
非自発的失業者の国民健康保険料の軽減/失業による国民年金保険料の特例免除
2. 入るお金を増やす
退職日を賞与の支給日以降にずらす、有給を消化してから辞める、年の途中で退職した場合の確定申告で払いすぎた所得税を戻す。日付を数週間ずらすだけで金額が変わるものがあります。
ボーナスをもらってから退職する方法/退職時の有給消化/年末調整を受けていないとき
3. 無収入の期間そのものを短くする
在職中に転職活動を進めれば、収入の途切れる期間をなくせます。また、早く再就職が決まった場合には再就職手当があり、残りの給付日数を捨てて働き始めることが単純な損にはならない仕組みです。
在職中に転職活動を進める方法/再就職手当
なお、失業給付の受給中にアルバイトをすることは、条件を満たせば可能です。ただし申告が必要で、収入や時間によって支給の扱いが変わります。無申告は不正受給になります。
貯金の計算より、優先されること
ここまで金額の話をしてきましたが、例外があります。
心身に不調が出ている場合、貯金が貯まるまで待つという判断が、かえって高くつくことがあります。在職中でなければ使えない制度(休職、傷病手当金)もあるため、順番を確認してください。
よくある質問
Q. 退職前に貯金はいくらあれば安心ですか?
一律の金額は決まりません。必要額は、毎月の生活費、退職後に自分で払うことになる健康保険料・国民年金保険料・住民税、失業給付が入り始めるまでの期間、そして転職活動にかかる期間で決まるためです。自己都合退職の場合、令和7年(2025年)4月1日以降の離職であれば待期7日のあと原則1か月の給付制限があり、その後に認定と振込が続くため、離職から最初の入金まで一定の期間が空きます。まず自分の生活費と支払い予定を日付順に並べて計算してください。
Q. 退職後に増える支出には何がありますか?
これまで給与から天引きされていたものが、自己負担に変わります。健康保険料(任意継続、国民健康保険、家族の扶養のいずれか)、国民年金保険料、住民税です。とくに住民税は前年の所得に対して課税される後払いの税なので、収入が下がっても前年分の請求が届きます。給与天引きの特別徴収から自分で納める普通徴収に切り替わると、まとまった額の納付書が来ます。
Q. 貯金が少ない場合、負担を軽くする制度はありますか?
あります。会社都合などの非自発的な離職では国民健康保険料が軽減される仕組みがあり、国民年金保険料には失業を理由とした特例免除があります。特例免除は未納とは扱いが異なり、受給資格期間に算入されます。払えないときに黙って未納にするのが最も不利になるため、まず自治体の窓口で相談してください。