仕事で精神的に限界のとき、退職より先に確認すること
いま、つらさが強い状態にある方へ
この記事は退職の手続きについて書いていますが、読む余裕がない状態であれば、先に相談してください。厚生労働省は「まもろうよ こころ」というページで、電話やSNSで相談できる窓口を案内しています。ひとりで判断しなくて構いません。
朝、体が動かない。通勤の電車で涙が出る。日曜の夕方から動悸がする。以前は普通にできていたことに、時間がかかるようになった。
この状態を「気持ちの問題」だと思っている方が多くいます。しかし、睡眠、食欲、動悸、涙、集中力の低下は、いずれも体に出ている変化です。意志の強さで戻せるものではありません。
そして、ここが重要なのですが、この状態では判断能力そのものが落ちています。だからこそ、いま一番危ないのは「もう少し頑張れるか」を自分に問うことと、勢いで後戻りできない選択をすることの両方です。この記事では、その中間にある選択肢を示します。
辞める順番によって、使える制度が変わる
職場から離れることが必要な場合はあります。ただ、離れ方の順番で、その後に使える制度が変わります。ここだけは知っておいてください。
| 順番 | その後に使えるもの |
|---|---|
| 受診 → 休職 → (必要なら)退職 | 傷病手当金、休職期間中の在籍、診断書という記録、離職理由の判断資料 |
| 先に退職 → その後に受診 | 退職後に発症した傷病は傷病手当金の対象外。離職理由を裏づける資料も残りにくい |
健康保険の傷病手当金は、業務外の病気やけがで働けなくなったときに、在職中の健康保険から支給されるものです。支給期間は通算1年6か月。退職日までに要件を満たしていれば、退職後も継続して受け取れる場合があります。
つまり、同じ「辞める」でも、受診と休職を経てからのほうが、選べるものが多く残ります。数日の差で変わることもあります。
1. まず受診する
「病院に行くほどではない」と感じるかもしれません。ただ、受診には治療以外の意味もあります。
- 診断書が出ると、休職の申請ができる -- 会社に「つらいので休みます」と説明するより、はるかに話が早く進みます
- 記録が残る -- 後で失業給付の離職理由を判断してもらうとき、資料になります
- 自分の状態が客観的に分かる -- 我慢できる範囲かどうかを、自分の感覚だけで判断しなくて済みます
受診先が分からない場合、まずは通いやすい心療内科や精神科で構いません。会社に産業医がいる場合、産業医面談という選択肢もあります。産業医は会社側の人間ではありますが、就業上の措置(残業の制限、業務内容の変更、休職の要否)について意見を出す立場です。
2. 休職という段階がある
退職と出社の二択で考えている方が多いのですが、間に休職があります。休職制度の有無と条件は、就業規則に書かれています。まずそこを確認してください。
休職を検討するときに確認すること
- 就業規則に休職制度があるか、期間はどれくらいか
- 休職中の給与の扱い(無給が一般的で、その間を傷病手当金で補う形になります)
- 社会保険料の負担がどうなるか
- 復職の条件(診断書の提出、産業医面談など)
休職して回復してから、あらためて辞めるかどうかを考えることもできます。限界の状態で決めた判断より、回復してから決めた判断のほうが、後から見て納得できることが多くあります。
3. 相談先は、内容によって分かれる
「誰に相談すればいいか分からない」という状態そのものが、負担を大きくしています。内容ごとに整理します。
心身の不調そのもの
医療機関(心療内科・精神科)、会社の産業医。気持ちのつらさを聞いてもらう窓口としては、厚生労働省が「まもろうよ こころ」で電話やSNSの相談先を案内しています。
ハラスメント、違法な労働条件、賃金の未払い
全国の労働局・労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーが、無料で利用できます。どこに相談すべきか分からない段階でも、入口として使えます。
総合労働相談コーナーと助言・指導・あっせん/労働基準監督署への申告/パワハラの定義
辞めた後のお金や手続き
失業給付についてはハローワーク、健康保険は加入している保険者、年金は自治体の窓口。いずれも、辞める前に問い合わせて構いません。
退職後に受けられる給付の一覧
相談するときは、起きたことを日付と出来事の形でメモしておくと、話が早く進みます。限界の状態では記憶を組み立てるのも負担になるので、断片でも構いません。
明日、どうしても出社できないとき
先の話をする余裕がない場合もあります。当面の対処として使えるものを挙げます。
- 年次有給休暇を使う -- 労働基準法39条の権利で、理由の説明は必要ありません。取得に会社の許可も要りません
- 受診して診断書をもらう -- 連続して休む必要がある場合、診断書があると話が進みます
- 連絡はメールでもよい -- 電話で話すことが負担なら、記録が残る手段のほうが確実です
自分で連絡することがどうしても難しい状態であれば、退職代行という手段もあります。ただし運営元によってできることの範囲が法律上異なるため、先に確認してください。
それでも辞めると決めたときに、知っておくこと
受診や休職を経たうえで、あるいはその余裕がなく、辞めるという判断をする場合。体調を理由とした退職には、いくつか知っておくと違う点があります。
離職理由の区分が変わることがある
自己都合の退職でも、体力の不足や心身の障害、疾病等が理由の場合は特定理由離職者に当たる可能性があり、その場合は給付制限が適用されません。判断はハローワークが行うため、離職票と一緒に診断書などの資料を持参して相談してください。
特定受給資格者・特定理由離職者の範囲/離職理由欄の区分と持参する資料
すぐに働けないなら、受給期間の延長がある
失業給付は「働ける状態にある人」が対象です。病気やけがですぐに働けない場合は、受給期間を延長する手続きがあります。回復してから受給を始められるようにするものなので、忘れると損をします。
失業保険の受給期間延長
退職届の理由は「一身上の都合」でよい
退職届に病名や詳しい事情を書く必要はありません。ただし、会社都合や体調を理由とする扱いを求める場合は、退職届の書き方が影響することがあります。
体調不良での退職届/うつ病・適応障害での退職届の書き方
健康保険は切れる前に決めておく
退職日の翌日に会社の健康保険の資格を失います。治療を続ける必要がある場合、切り替えの空白は避けたいところです。任意継続は退職日の翌日から20日以内という期限があります。
退職後の健康保険は3択/任意継続
いま決めなくていいこと
限界の状態にあるとき、頭の中では「辞めるか、続けるか」の二択が繰り返し再生されます。ただ、今日決めなければいけないことは、実はほとんどありません。
今日できるのは、受診の予約を取ること、有給を1日使うこと、就業規則の休職の項目を読むこと。このくらいです。それで十分です。辞めるかどうかは、少し回復してからのほうが、正しく決められます。
そして、心身が壊れる前に離れることは、どの基準で見ても正当な判断です。それを甘えと呼ぶ根拠はありません。
よくある質問
Q. 精神的に限界です。すぐ退職したほうがよいですか?
職場から離れること自体は必要な場合がありますが、離れ方には順番があります。健康保険の傷病手当金は、在職中に業務外の病気やけがで働けなくなった場合の制度で、退職後に発症したものは対象になりません。また、退職前に受診しておくと診断書が残り、失業給付の離職理由の判断でも資料になります。まず受診し、休職という選択肢を確認したうえで、それでも難しければ退職を検討するという順番が、使える制度を減らさない進め方です。
Q. 限界の状態で、どこに相談すればよいですか?
内容によって窓口が分かれます。心身の不調そのものは医療機関、職場の環境や働き方は産業医や社内の相談窓口、ハラスメントや違法な労働条件は全国の労働局・労働基準監督署内にある総合労働相談コーナー(無料)が該当します。気持ちのつらさを聞いてもらう窓口としては、厚生労働省が「まもろうよ こころ」で電話やSNSの相談先を案内しています。どこに相談すべきか分からない状態でも、総合労働相談コーナーは入口として使えます。
Q. 体調不良で辞めた場合、失業保険はどうなりますか?
自己都合の退職でも、体力の不足や心身の障害、疾病等が理由の場合は特定理由離職者に当たる可能性があり、その場合は給付制限が適用されません。判断はハローワークが行うため、離職票と一緒に診断書などの資料を持参して相談してください。なお、病気やけがですぐに働けない状態のときは、受給期間の延長という手続きがあります。働ける状態になってから受給を開始できるようにするものです。
辞めると決めたときのために
フォームに入力するだけで、正しい書式の退職届をPDFで作成できます。入力した内容がサーバーに送信されることはありません。急ぐ必要はありません。
退職届ビルダーで作成する(無料)