移乗の介助中に利用者が転倒した。訪問先へ向かう途中で自転車ごと転んだ。事故のあとは、続ける自信そのものが崩れます。辞めるかどうかを決める前に、手続きの面で先にやっておくべきことがあります。

まず、報告を残す

事故やヒヤリハットは、事業所に報告し、記録に残してください。辞めるつもりだから黙っておく、という判断がいちばん危険です。

  • 利用者に何が起きたのか(時刻、場所、状況)
  • そのときの自分の行動
  • 誰に、いつ報告したか

介護事故については、事業所が市町村へ報告することが運営基準で定められています。報告の様式や期限は自治体ごとに定められているため、事業所の手続きに沿って進めてください。

記録が残っていないと、後から「あのとき何があったのか」を誰も説明できなくなります。あなた自身を守るのも、この記録です。

個人が賠償を負うのか

利用者に損害が生じた場合、まず責任を負うのは事業者です。従業者の行為によって生じた損害について、事業者が使用者として責任を負う仕組みがあります(民法715条1項)。

多くの事業所は損害賠償保険に加入しています。「あなたが弁償して」と言われたときは、その場で支払いを約束せず、事業所の保険の適用を確認してください。

故意や重大な過失があった場合には、個人の責任が問われることもありますが、これは事情によって判断が分かれる部分です。金額の話が出たら、労働基準監督署や自治体の労働相談窓口、法テラスなどに相談してから対応してください。

自分がけがをした場合

移動中や介助中に自分がけがをしたときは、労災保険の対象になる可能性があります。

場面扱われ方
利用者宅での介助中のけが業務上の災害として扱われることが多い
事業所と利用者宅の間の移動中業務に伴う移動として扱われることがある
利用者宅から次の利用者宅への移動中同上
自宅から最初の訪問先への移動中通勤災害として扱われることがある

どれに当たるかは、移動の目的や事業所の指示の有無によって判断が変わります。自己判断で「これは労災にならない」と決めず、事業所と労働基準監督署に確認してください。

労災の請求は、退職後でも可能です。ただし、退職してからだと事業所の証明を得るのに時間がかかります。在職中に手続きを始めておくほうが確実です。

心の負担が続いているとき

事故の後、訪問先の玄関の前で足がすくむ、夜眠れない、その利用者のことを思い出すと動悸がする。こうした状態が続いているなら、辞めるかどうかを決める前に、まず受診してください。

  • 事業所に産業医や相談窓口があれば使う
  • なければ、心療内科や精神科を受診する
  • 診断が出た場合、就業規則に定めがあれば休職という選択肢がある

在職中の傷病であれば、健康保険の傷病手当金の対象になる可能性があります。退職後に発症したものは対象になりません。順番によって使える制度が変わるため、辞める前に確認してください。

それでも辞めると決めたなら

事故を理由に辞めること自体は、何も後ろめたいことではありません。ただし、辞める前に次の3つを済ませておくと、後で困りません。

  1. 1 事故の報告と記録を残す
  2. 2 自分のけががあれば労災の手続きを始める
  3. 3 体調を崩しているなら受診し、診断を残す

退職の申し出は、期間の定めのない雇用契約であれば民法627条1項により、申し入れから2週間で契約が終了します。就業規則に申し出期限がある場合は、それに沿って伝えるのが穏当です。

まとめ

  • 辞めるつもりでも、事故の報告と記録は必ず残す
  • 賠償の話が出たら、その場で約束せず保険の適用と相談先を確認する
  • 自分のけがは労災の対象になりうる。在職中に手続きを始める
  • 心身の不調は、退職より先に受診する