退職時の給与・貸与品の精算
退職日が近づくと、返すものと受け取るものの整理が必要になります。 このうち賃金と金品の返還については、労働基準法23条が期限まで定めています。 知らないままだと「次の給与日まで待ってください」で通ってしまう部分です。
このページで参照している法令・資料
- 労働基準法23条1項・2項(金品の返還)
- 労働基準法24条1項(賃金の支払・全額払いの原則)
- 労働基準法22条1項(退職時等の証明)
- 所得税法226条1項(源泉徴収票)
- 雇用保険法施行規則7条(被保険者でなくなつたことの届出)
- 厚生労働省 全国労働基準監督署の所在案内
請求すれば7日以内
労働基準法23条1項(金品の返還)
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、 七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、 労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
条件は「権利者の請求があつた場合」です。 黙っていれば通常の給与支払日のままなので、 早く受け取る必要があるときは請求してください。 そのとき、いつ請求したかが分かるようにメールなど記録の残る方法にしておくと確実です。
返還の対象は賃金だけではありません。積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品が対象です。社内預金や財形貯蓄、預けている保証金があれば、あわせて請求できます。
争いがあっても、異議のない部分は支払われる
労働基準法23条2項は、前項の賃金または金品に関して争いがある場合について、 使用者は異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならないと定めています。
つまり、貸与品の弁償や研修費の返還をめぐって話がついていないことは、 争いのない給与まで留保してよい理由にはなりません。 もめている部分と、もめていない部分を切り分けて考えてください。 返還を求められている場合の考え方は研修費・資格取得費用の返還を求められたらにまとめています。
給与からの天引きが認められる場合は限られている
労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。これが全額払いの原則です。 そのうえで同項ただし書が、控除できる場合を次のように限定しています。
1. 法令に別段の定めがある場合
所得税・住民税の源泉徴収、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の控除がこれにあたります
2. 労働協約に別段の定めがある場合
労働組合と使用者の間で締結された労働協約に定めがある場合です
3. 過半数組合または過半数代表者との書面による協定がある場合
事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があれば、賃金の一部を控除して支払うことができます
制服代、備品の破損の弁償、貸与品の未返却分といった名目の控除は、 3番目の書面による協定があるかどうかが分かれ目になります。 給与明細に見覚えのない控除項目があれば、名目と金額を確認したうえで、 その根拠となる協定の有無を会社に尋ねてください。
返すもの・受け取るもの
会社に返すもの
- 健康保険被保険者証(本人・扶養家族の分)
- 社員証・入館証・名刺
- 制服・作業着
- 貸与されたパソコン・携帯電話・工具
- 業務で使った書類・データ・鍵
- 通勤定期券(現物支給の場合)
会社から受け取るもの
- 最後の給与(請求があれば7日以内。労基法23条1項)
- 未消化分の賃金・割増賃金
- 積立金・社内預金など労働者の権利に属する金品(同項)
- 源泉徴収票(退職の日以後1か月以内。所得税法226条1項)
- 離職票(希望する場合。雇用保険法施行規則7条)
- 雇用保険被保険者証
- 健康保険資格喪失証明書
- 年金手帳・基礎年金番号通知書(会社が預かっている場合)
- 退職証明書(請求があれば遅滞なく。労基法22条1項)
健康保険被保険者証は退職日の翌日以降は使えません。扶養家族の分も含めて返却します。 郵送で返す場合は、何をいつ送ったかが分かるように記録の残る方法を使ってください。 退職後の手続き全体は退職後にやることリストにまとめています。
受け取る書類には別の期限がある
賃金と金品は労働基準法23条の7日以内ですが、書類はそれぞれ根拠が異なります。
- 源泉徴収票 : 年の中途で退職した場合は退職の日以後1か月以内(所得税法226条1項)
- 離職票 : 会社は事実のあった日の翌日から起算して10日以内に資格喪失届を提出(雇用保険法施行規則7条1項)。 その後ハローワークでの処理を経て交付される
- 退職証明書 : 請求があれば遅滞なく交付(労働基準法22条1項)
届かない場合の対処は源泉徴収票がもらえないとき、離職票が届かないときの対処法、退職証明書は請求すればもらえるをご覧ください。
よくある質問
Q. 有給の買い取り分は7日以内に入りますか?
買い取りの取り決めがあり、支払うべき賃金として確定しているのであれば、 労働基準法23条1項の「賃金」として扱われます。 そもそも有給休暇は取得するのが原則で、 買い取りは制度として当然に認められているものではありません。 退職前の有給消化については退職時の有給消化をご覧ください。
Q. 退職金も7日以内ですか?
退職金は、就業規則や退職金規程で支払時期が定められているのが通常で、 その定めに従って支払われます。 詳しくは退職金はいつ振り込まれる?をご覧ください。 なお退職手当の請求権の時効は、労働基準法115条と附則143条3項により5年です(それ以外の賃金は3年)。
Q. 貸与品を紛失してしまいました
実際に生じた損害について話し合うこと自体は問題ありません。 注意が必要なのは、あらかじめ金額を決めておく定め(労働基準法16条が禁じています)と、 協定のない一方的な給与からの控除(24条1項)です。 金額を提示されたら、その根拠と算定方法を確認してください。
Q. 相談先はどこですか?
賃金の支払いや控除に関することは労働基準監督署が窓口です。 労働条件全般については、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーで無料で相談できます。