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退職後に未払い残業代を請求できる期間

辞めてから「あの残業代は払われていなかったのではないか」と気づくことがあります。 賃金の請求権は退職したことで消えるわけではなく、消滅時効にかかるまでは残ります。 ただし期間には条文どおりの数字と、附則による読み替えの数字があり、 しかも退職金だけ扱いが違います。まずそこを正確に押さえてください。

このページで参照している法令・資料

  • 労働基準法115条(時効)・同法附則143条3項
  • 労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
  • 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
  • 労働基準法109条(記録の保存)・同法附則143条1項
  • 労働基準法114条(付加金の支払)・同法附則143条2項
  • 労働基準法24条(賃金の支払)
  • 賃金の支払の確保等に関する法律7条(未払賃金の立替払)
  • 厚生労働省 未払賃金立替払制度の概要と実績制度の概要(PDF)

時効は「条文は5年、当分の間は3年」

労働基準法115条は、賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間行わない場合に時効によって消滅すると定めています。 ところが同法附則143条3項が「当分の間」の読み替えを定めていて、 実際にはこう読むことになります。

  • 退職手当(退職金)の請求権 : 5年
  • 退職手当を除く賃金の請求権 : 3年

毎月の給与、残業代、休日手当、深夜手当はすべて「退職手当を除く賃金」なので3年です。 一方、退職金は5年のまま据え置かれています。 「賃金の時効は3年」とだけ覚えていると、 退職金についてまだ請求できる期間が残っているのに諦めてしまうことがあります。

起算点は「これを行使することができる時」、つまりその賃金の支払日です。 退職日からまとめて3年ではなく、月ごとに古いものから順に時効にかかっていきます。 退職金の支払時期については退職金はいつ振り込まれる?で解説しています。

割増賃金の率

労働基準法37条1項は、時間外労働と休日労働について 「2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上」の割増賃金を支払わなければならないと定め、 その政令が時間外は2割5分、休日は3割5分と定めています。

労働の種類割増率根拠
時間外労働(法定労働時間を超える労働)2割5分以上労基法37条1項・政令
時間外労働のうち1か月60時間を超えた部分5割以上労基法37条1項ただし書
休日労働(法定休日の労働)3割5分以上労基法37条1項・政令
深夜労働(午後10時〜午前5時)2割5分以上労基法37条4項

表の率は下限です。 就業規則や労働協約でこれより高い率を定めている場合は、そちらが適用されます。

なお37条5項により、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は割増賃金の基礎に算入しません。 月給の全額を時間単価の計算に使うわけではない点に注意してください。 時間外労働そのものの上限規制については残業・労働時間が退職理由のときで整理しています。

何が証拠になるか

「証拠がないから無理だ」と決めてしまう前に、 どこに何が残っているのかを確認してください。

会社が保存している記録

労働者名簿、賃金台帳、労働関係に関する重要な書類には保存義務があります(労基法109条)。タイムカード、出勤簿、賃金台帳は会社側にあるのが通常です

自分の手元に残るもの

業務メールの送信時刻、業務用チャットの発言時刻、社内システムのログイン履歴、入退館記録の控え、給与明細。給与明細は支給された割増賃金の額を確認する起点になります

労働条件を示すもの

労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、賃金規程。所定労働時間と賃金の決め方が分からないと、割増賃金の計算の基礎になる時間単価が出せません

労働基準法109条は、使用者に労働者名簿・賃金台帳・労働関係に関する重要な書類の保存義務を課しています。 条文上は5年ですが、附則143条1項により当分の間3年です。 時効と同じ長さなので、時間が経つほど双方の記録が失われていきます。

付加金という仕組み

労働基準法114条は、20条(解雇の予告)、26条(休業手当)、37条(割増賃金)に違反した使用者や、 39条9項の賃金を支払わなかった使用者に対して、裁判所が、労働者の請求により、未払金と同一額の付加金の支払を命ずることができると定めています。

ポイントは2つあります。ひとつは裁判所が命じるものだという点で、 話し合いの段階で当然に発生するものではありません。 もうひとつは請求の期限で、条文は「違反のあつた時から5年以内」ですが、 附則143条2項により当分の間3年と読み替えられます。

給与から勝手に差し引かれていた場合

労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています(全額払いの原則)。 控除が認められるのは、法令や労働協約に別段の定めがある場合と、 事業場の過半数組合または過半数代表者との書面による協定がある場合に限られます。

制服代や備品の弁償を一方的に差し引かれていた場合は、この協定があるかを確認してください。 退職時の精算については退職時の給与・貸与品の精算で詳しく解説しています。

会社が倒産した場合の立替払制度

賃金の支払の確保等に関する法律7条に基づき、 企業倒産により賃金が支払われないまま退職した人に対して、 独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立替払します。

対象になる賃金

退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金 (定期給与と退職金。ボーナスは含みません)。 ただし総額2万円未満のときは対象外です。

退職日における年齢未払賃金総額の限度額立替払の上限額
45歳以上370万円296万円(370万円×0.8)
30歳以上45歳未満220万円176万円(220万円×0.8)
30歳未満110万円88万円(110万円×0.8)

立替払されるのは未払賃金総額の8割で、総額が年齢区分の限度額を超える場合は限度額の8割になります。 労働者側の要件として、破産手続開始等の申立ての6か月前の日から2年間に退職していること、 破産手続開始の決定等の日の翌日から2年以内に請求することが必要です。 まずは最寄りの労働基準監督署に相談してください。

よくある質問

Q. 「うちは固定残業代だから」と言われました

固定残業代の制度があること自体は、割増賃金を支払わなくてよいという意味ではありません。 何時間分としていくら支払われているのかが明確になっているか、 その時間を超えた分が別途支払われているかを、給与明細と賃金規程で確認してください。 労働基準法37条が求めているのは、実際に働いた時間外労働に対する割増賃金の支払いです。

Q. 管理職なので残業代は出ないと言われていました

労働基準法41条2号は「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」 を挙げており、これに当たる場合は同章等で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません。 ただしこれは役職名で決まるものではなく、実態で判断されます。 また41条が適用除外にしているのは労働時間・休憩・休日に関する規定であり、 深夜業の割増賃金を定めた37条4項はこれに含まれないため、深夜の割増賃金は支払われます。 判断に迷う場合は労働基準監督署に相談してください。

Q. 退職代行を使った場合も請求できますか?

請求すること自体はできますが、誰が代わりに交渉できるかは業者の種類によって変わります。 詳しくは退職代行で有給消化や未払い賃金の請求はできる?をご覧ください。

Q. どこに相談すればよいですか?

労働基準法違反に関することは労働基準監督署が窓口です。 各都道府県労働局に設置されている総合労働相談コーナーでは、 労働条件全般について無料で相談できます。 金額や事実関係に争いがあり、話し合いで解決しない場合は、 労働審判や訴訟といった裁判所の手続きを検討することになります。

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