退職代行と有給・未払い賃金
退職代行を検討する人の多くが気にするのが、残っている有給を消化できるかと未払いの賃金を回収できるかです。 どちらも「交渉」にあたるため、依頼先の種類によって扱えるかどうかが変わります。
種類別にできること
| 頼みたいこと | 民間業者 | 労働組合 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 退職の意思を伝える | 可 | 可 | 可 |
| 有給消化の希望を伝える | 可 | 可 | 可 |
| 有給消化について交渉する | 不可 | 可 | 可 |
| 退職日を調整する | 不可 | 可 | 可 |
| 未払い賃金・残業代を請求する | 不可 | 団体交渉として可 | 可 |
| 損害賠償請求に対応する | 不可 | 不可 | 可 |
| 労働審判・訴訟の代理 | 不可 | 不可 | 可 |
根拠となる条文は退職代行の3種類にまとめています。
「伝える」と「交渉する」は違う
民間業者に有給消化を頼んだ場合、業者ができるのは「本人は有給を消化したいと言っています」と伝えることまでです。
会社が「有給は認められない」と答えたら
民間業者はそれ以上進められません。「認めてください」と押し返すのは交渉であり、 報酬を得てこれを業として行えば弁護士法72条に抵触するおそれがあるためです。 結果として、有給が消化できないまま退職日を迎えることになります。
有給が数十日残っている場合、金額にすると数十万円分になります。 消化を確実にしたいなら、最初から交渉できる依頼先を選ぶ必要があります。
法律上、有給の消化を会社は拒否できない
年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えなければならないものです。 会社には時季変更権がありますが、 これは「別の時季に与える」権利であって、与えないことを認める権利ではありません。
退職時の有給消化については、退職日より後に変更する余地がないため、 時季変更権を行使できる場面が実質的にないと考えられています。 つまり法的には消化できるのが原則です。
それでも拒否されたら交渉が要る
法的に認められていることと、現実に会社が応じることは別です。 拒否された状態を是正させるには、誰かが会社に対して主張しなければなりません。 この「主張する」ことが交渉であり、できる依頼先が限られるという構造になっています。
有給休暇の権利については退職時の有給消化は拒否できないで詳しく解説しています。
未払い賃金・残業代は弁護士の領域
金銭の支払いを求める請求は、典型的な法律事務です。 民間業者は扱えません。労働組合は団体交渉の議題として取り上げられますが、 会社が支払いに応じない場合に労働審判や訴訟で回収するには弁護士が必要です。
請求を考えているなら残しておくもの
- タイムカード・勤怠記録の写し
- 給与明細(できる限り遡って)
- 業務用のメール・チャットの記録
- 就業規則・賃金規程
退職代行を使うと会社との連絡が絶たれるため、依頼する前に手元に集めておくことが重要です。 退職後に「証拠を取りに行く」ことはできません。
損害賠償を請求すると言われた場合
退職を伝えた際に「損害賠償を請求する」と言われることがあります。 この対応は弁護士でなければできません。
ただし、退職したこと自体を理由に損害賠償が認められることは通常ありません。 民法627条1項は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。 この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」 と定めており、退職は労働者の権利だからです。
実際に請求されている、書面が届いたという状況であれば、 早い段階で弁護士に相談してください。
依頼前に有給の残日数を確認しておく
有給が何日残っているかによって、交渉が必要かどうかの判断が変わります。 残日数が少なければ民間業者でも足りますし、多ければ交渉できる依頼先を選ぶ価値があります。