他の職員の関わり方に疑問がある。声のかけ方が強い、身体を押さえつけている、部屋から出さない。見てしまったあと、何もできないまま辞めるという選択をする人がいます。その前に、知っておいてほしい仕組みがあります。

通報は義務として定められている

障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)は、障害者福祉施設従事者等による虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に、市町村への通報を義務づけています。

障害者虐待防止法16条1項
障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

「確証がないから通報できない」と考える必要はありません。条文は「受けたと思われる」段階での通報を求めています。判断するのは市町村です。

子どもについては、児童福祉法25条により、要保護児童を発見した者は市町村や児童相談所などに通告する義務があります。

通報したことで不利益を受けない

通報すると自分の立場が危うくなる、と考えて動けなくなる人がいます。法律には、通報者を守る定めがあります。

障害者虐待防止法16条4項
障害者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

通報を理由とした解雇や不利益な扱いは、認められていません。それでも実際に不利益な扱いを受けた場合は、自治体の担当課や労働相談窓口に持ち込んでください。

通報先

状況通報・相談先
事業所の職員による虐待が疑われる市町村の障害福祉担当課
子どもの安全に関わる市町村、児童相談所
事業所の運営そのものに問題がある指定権者である自治体の担当課
自分の労働環境の問題労働基準監督署、自治体の労働相談窓口

事業所内に相談できる管理者がいるなら、まず内部で共有するのが順当です。ただし、管理者自身が関わっている場合や、相談しても止まらない場合は、外部に持ち込んでください。

記録を残す

通報するかどうかにかかわらず、見たことは記録に残してください。

  • いつ、どこで、誰が、誰に対して、何をしたか
  • そのときの子どもの様子
  • 自分がとった行動
  • 誰に報告したか、その反応

日付入りで、その日のうちに書いてください。後からまとめて書いた記録は、細部があいまいになります。

自分が指示されたとき

不適切な対応を、自分がするよう指示されることがあります。この場合は、応じないことを先に決めてください。

  • 指示された内容と、いつ誰から言われたかを記録に残す
  • 応じない
  • 管理者の上位者、法人本部、自治体の担当課に相談する

応じてしまうと、後で責任を問われるのは実行した本人です。辞めるかどうかより先に、この判断を立ててください。

辞めることと通報することは、別の判断

事業所を辞めたとしても、見たことは残ります。退職後でも通報はできます。ただし、記録が手元になくなる、他の職員に確認できなくなる、といった不利はあります。

在職中に記録を残しておくことが、辞めた後の選択肢を残します。

心の負担が大きいとき

見てしまった状況が頭から離れない、その場面を思い出すと動悸がする。こうした状態が続いているなら、受診を検討してください。在職中の傷病であれば、健康保険の傷病手当金の対象になる可能性があります。退職後に発症したものは対象になりません。

まとめ

  • 「虐待を受けたと思われる」段階で通報義務がある。判断するのは市町村
  • 通報を理由とした解雇その他の不利益な扱いは法律で禁じられている
  • 見たことは、その日のうちに日付入りで記録する
  • 指示されたら応じない。記録を残して外部に相談する