退職金がない会社
退職を決めてから「うちは退職金が出ないらしい」と知ることがあります。 結論から言えば、退職金を支給しないこと自体は違法ではありません。 退職金の支給を義務づける法律はなく、制度を設けるかどうかは会社の判断に委ねられているためです。
法律上の位置づけ:相対的必要記載事項
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成・届出を義務づけ、 記載すべき事項を列挙しています。退職手当については3号の2に次のように定められています。
三の二退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
労働基準法第89条第3号の2
冒頭の「定めをする場合においては」が要点です。制度を設けた会社にだけ記載義務が生じる書き方で、 こうした条項を相対的必要記載事項といいます。 始業・終業の時刻や賃金の決定方法(1号・2号)のように、 どの会社でも必ず書かなければならない絶対的必要記載事項とは扱いが異なります。
裏を返せば、制度がある会社なら必ず就業規則に書かれているということでもあります。
制度がある企業は74.9%
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%でした。約4社に1社は制度がありません。 退職金がないことは珍しい話ではないということです。
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」/まとめ資料(PDF)
近年は退職金制度を設けず、その分を毎月の給与や賞与に上乗せする設計の会社もあります。 制度の有無だけで待遇の良し悪しは判断できません。
自分の会社に制度があるか調べる手順
ステップ1:就業規則を見る
「退職金規程」「退職手当規程」という別規程になっていることもあります。労働基準法106条により就業規則は従業員への周知が義務づけられているため、社内の共有フォルダや掲示、備え付けの冊子で閲覧できるはずです。
ステップ2:雇用契約書・労働条件通知書を見る
入社時に交付された書面に退職手当に関する記載があるか確認します。
ステップ3:人事・総務に確認する
書面で見つからない場合は直接尋ねます。制度の有無、支給対象になる最低勤続年数、自己都合の場合の支給率を確認しておくと、退職後の見通しが立ちます。
確認するのは「支給対象になる勤続年数」「計算式と支給率」「支払の時期」の3点です。いずれも労働基準法89条3号の2で記載が求められている項目なので、 制度があれば必ずどこかに書かれています。
勤続年数が足りずに支給されないケース
制度はあるのに支給されない場合、最低勤続年数の要件を満たしていない可能性があります。 東京都「令和6年中小企業の賃金・退職金事情」では、自己都合退職の場合に受給に必要な最低勤続年数を3年としている企業が47.3%で最も多くなっています。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」でも、自己都合の場合に「3年以上4年未満」を要件とする企業が 57.0%と最多でした。制度があっても勤続2年で辞めれば支給されない会社が多い、ということです。
規程があるのに支払われない場合
就業規則や退職金規程に支給の定めがある場合、その退職金は労働基準法上の賃金にあたり、会社に支払義務があります。 「制度を設けるかは任意」なのは制度そのものの話であって、 いったん定めた以上は約束どおり支払わなければなりません。
対応の順序
- 1. 就業規則・退職金規程の該当箇所を控える(写真やコピー)
- 2. 支払時期を確認する。定めがあればその時期まで待つ
- 3. 書面で請求する。支払時期の定めがない場合は請求日から7日以内が期限
- 4. 応じない場合は労働基準監督署に相談する
支払時期の考え方は退職金はいつ振り込まれるかで詳しく解説しています。
退職金がない前提で退職後の資金を考える
退職金が出ない場合、退職後の当面の生活費は貯蓄と失業保険(基本手当)で賄うことになります。 基本手当は申請してすぐに振り込まれるわけではなく、待期期間7日と、 自己都合退職の場合はさらに給付制限期間があります。
受給できる額と振込時期は失業保険シミュレーターで試算できます。