退職時に返す貸与品と給与天引きの可否
返却そのものは事務作業ですが、紛失や破損があったときにどう処理されるかは法律の問題になります。会社が一存で最終給与から差し引くことは、 労働基準法の全額払いの原則に反します。 知らないまま差し引かれていることが少なくない部分です。
このページは労働基準法16条・24条の条文に基づいています。
返却するもの
| 品目 | 注意点 |
|---|---|
| 健康保険証・資格確認書 | 本人と被扶養者の分。退職日の翌日から使えません。 |
| 社員証・入館カード | セキュリティに関わるため、返却漏れが起きやすい代表格です。 |
| 鍵・キーカード | 事業所や社用車、ロッカーの鍵を含みます。 |
| PC・スマートフォン・タブレット | 会社が費用を負担して購入したものは会社の資産です。 |
| 制服・作業着・安全靴 | クリーニングの要否を確認してください。 |
| 名刺 | 自分の名刺のほか、業務で受け取った取引先の名刺の扱いも確認します。 |
| 通勤定期券 | 現物支給の場合は返却、精算が必要になることがあります。 |
| 書類・データ・USBメモリ | 業務で作成した資料や顧客情報は会社に帰属するのが原則です。 |
健康保険証と資格確認書は、返し忘れると誤って使ってしまい、 医療費を返還することになります。くわしくは健康保険証の返却と資格喪失後の受診を参照してください。
給与から勝手に引くことはできない
労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。控除が認められるのは、法令に別段の定めがある場合か、 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ないときは労働者の過半数を代表する者)との 書面による協定がある場合に限られます。
つまり、貸与品の弁償分を最終給与から差し引くには、 少なくとも労使協定という手続きが必要です。 「なくしたから引いておきました」と事後的に説明されるような処理は、 この原則に沿っていません。
金額をあらかじめ決めておくことも禁じられている
労働基準法16条は、使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています。「貸与品を紛失した場合は一律1万円」といった取り決めは、 この損害賠償額の予定にあたります。
実際に損害が生じた場合に、その額について話し合う余地までは否定されていません。 禁じられているのは先に金額を決めておくことです。 研修費の返還を求められた場合も同じ条文が問題になります。研修費・資格取得費用の返還を求められたらを参照してください。
返却は記録が残る形で
返却物の一覧を作って控えを持つ
品目と数量を書き出し、受け取った側の署名をもらうのが確実です。会社が返却確認書を用意していることもあります。
郵送する場合は記録が残る方法にする
有給消化で出社しない場合は郵送になります。追跡できる方法を使い、送付物の写真を撮っておきます。
返却日を最終出社日にそろえる
ばらばらに返すと抜けが出ます。健康保険証だけは退職日との関係で扱いが違うため、会社と調整します。
データの扱いは別問題として整理する
PCやスマートフォンを返す前に、私物のデータを取り出す必要があります。 このとき会社の情報を一緒に持ち出さないことが重要です。 顧客名簿や技術資料を私用の端末にコピーすると、 不正競争防止法上の営業秘密の問題になることがあります。
線引きの考え方は会社のデータの持ち出しにまとめています。悪意がなくても問題になりうる部分です。
よくある質問
返却物を紛失したら給与から引かれますか?
労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。控除できるのは、法令に別段の定めがある場合か、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合に限られます。会社の一存で弁償分を差し引くことは、この全額払いの原則に反します。
「紛失したら1万円」と決めておくことはできますか?
できません。労働基準法16条は、使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています。あらかじめ金額を決めておく取り決めそのものが禁じられています。実際に損害が生じた場合に、その額について話し合う余地は残りますが、金額を先に決めておくことはできません。
有給消化に入るので最終出社日に返せません
健康保険証と資格確認書は、退職日の翌日から使えなくなるため退職日以降に返すのが筋ですが、実務上は最終出社日に返して、退職日までに受診の予定があれば会社と調整するのが一般的です。それ以外の貸与品は最終出社日に返却するか、郵送します。郵送する場合は、送った記録が残る方法にして、送付物の一覧を控えておいてください。
私物と会社のものが混ざっている場合はどうしますか?
会社が費用を負担して購入したものは会社の資産です。業務用のPCやスマートフォンに私物のデータが入っている場合は、退職前に自分のデータだけを取り出し、会社の情報は持ち出さないようにします。顧客情報や技術情報を持ち出すと、不正競争防止法上の営業秘密の問題になることがあります。