船員の退職を調べるとき、最初に知っておくべきことがあります。インターネットで見つかる「退職の常識」の多くは、船員には当てはまりません。
労働基準法116条1項
第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
つまり、労働基準法のうち適用されるのは1条から11条まで(総則)などに限られ、労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、解雇の予告といった実務的な規定は船員には適用されません。
出典: 労働基準法116条1項
代わりに適用されるのが船員法
船員の労働条件は船員法が定めています。船員法は労働基準法とは別の体系で、次のような独自の制度を持っています。
- 雇入契約(労働契約に相当するが、成立・終了の仕組みが違う)
- 24時間以上の期間を定めた書面による解除の申入れ(船員法42条)
- 失業手当(同45条)、雇止手当(同46条)
- 送還(同47条)
- 船員手帳(同50条)
- 独自の有給休暇の日数(同74条・75条)
- 有給休暇を与えられる前に退職したときの支払い義務(同78条2項)
誰が「船員」にあたるか
船員法1条1項は次のように定めています。
この法律において「船員」とは、日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備船員をいう。
同条2項により、次の船舶は除かれます。
- 総トン数5トン未満の船舶
- 湖、川又は港のみを航行する船舶
- 政令の定める総トン数30トン未満の漁船
- スポーツ・レクリエーション用のヨット、モーターボートなど、船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令で定めるもの
自分が船員法上の船員にあたるかどうかで、適用される法律が変わります。判断に迷う場合は、地方運輸局または船員に関する相談窓口に確認してください。
出典: 船員法1条
監督する官庁も違う
労働基準法は労働基準監督署が監督しますが、船員法に関する監督は国土交通省(地方運輸局等)が行います。
労働時間や賃金の問題で相談する先も違います。労働基準監督署ではなく、地方運輸局の船員労務官に相談してください。
民法627条も使えないのか
期間の定めのない雇用契約について「解約の申入れから2週間で終了する」と定める民法627条1項は、船員には船員法42条という特別の規定があります。
期間の定のない雇入契約は、船舶所有者又は船員が二十四時間以上の期間を定めて書面で解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に終了する。
「2週間」ではなく「24時間以上の期間を定めて書面で」です。これは船員に有利にも不利にも働き得る規定です。詳しくは別の記事で解説します。
出典: 船員法42条
この記事群の使い方
以降の記事では、船員法の条文に基づいて退職の手続きを整理しています。陸上の労働者向けの情報をそのまま当てはめないよう注意してください。