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就業規則の「1か月前」と民法627条

多くの会社の就業規則には「退職しようとする者は1か月前までに申し出ること」といった定めがあります。 一方、民法627条1項は申入れから2週間で雇用は終了するとしています。 この2つが食い違ったときにどう考えるかを、条文から順に整理します。

このページは民法627条労働基準法89条の条文に基づいています。裁判例の評価が分かれる論点については、 断定を避けて条文と実務上の進め方を示しています。

民法627条は3つの項からできている

1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2項

期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3項

六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

2項と3項は「使用者からの解約の申入れ」についての規定です。労働者が辞める場合は1項の2週間が原則になります。 月給制だから月の前半までに言わなければならない、という説明を見かけることがありますが、 現行の条文は主語を使用者に限定しています。

就業規則の期限はなぜ置かれているのか

労働基準法89条1項3号は「退職に関する事項」を就業規則の絶対的必要記載事項としています。 申出期限を書くこと自体は、この記載義務に沿ったものです。 会社としては引き継ぎや後任の手配に時間が必要なので、 1か月前や2か月前と定めるのが一般的です。

問題になるのは、この期限が民法627条1項の2週間より長いときに、 労働者を拘束するのかという点です。ここは見解が分かれており、 確立した扱いがあるとはいえません。 「就業規則が常に優先する」とも「常に無効」とも言い切れないのが実際のところです。

実務上の進め方

争点として残る部分があるとしても、実際に取るべき行動ははっきりしています。

原則は就業規則の期限に合わせて早めに申し出る

期限に沿っていれば、退職日の設定でもめる余地がありません。有給の消化日数も確保しやすくなります。

2週間で辞められるという前提は持っておく

「就業規則に3か月前と書いてあるから辞められない」と言われたときに、民法627条1項があることを知っているかどうかで交渉の余地が変わります。

申し出た日付が残る形にする

口頭だけだと「聞いていない」となりがちです。退職届を出す、メールで送るなど、日付が残る方法を併用します。

受け取ってもらえないときは内容証明郵便

意思表示が到達したことを証明できます。到達すれば効力が生じるため、会社の承認は要件になりません。

受け取りを拒まれた場合の具体的な手順は退職届が受理されない場合の対処法に、郵送の方法は退職届を郵送で提出する方法にまとめています。

有給の消化を含めて逆算する

申出期限だけを見て退職日を決めると、有給が消化しきれないことがあります。退職日から逆算して、最終出社日と申し出る日を決めるのが順序としては正しくなります。

残日数が多い場合、申し出る日を1か月早めるだけで全部消化できることがあります。

申し出る期限を逆算する

希望の退職日を入れると、退職を申し出る期限・最終出社日・有給消化の開始日が出ます。土日と祝日を除いて計算します。

退職日を逆算する

よくある質問

就業規則に1か月前と書いてあっても2週間で辞められますか?

民法627条1項は、期間の定めのない雇用について、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了すると定めています。就業規則の予告期間を民法より長くした場合にその定めが労働者を拘束するかについては見解が分かれており、確立した扱いがあるとはいえません。実務上は、2週間で退職できるという前提を持ちつつ、就業規則の期限に沿って早めに申し出るのが最も摩擦が少ない進め方です。

月給制だと月の前半に言わないといけないと聞きました

民法627条2項は「使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない」と定めています。条文上、この制約がかかるのは使用者からの解約の申入れです。労働者から辞める場合は1項の2週間の原則によります。かつては労働者側にもこの制約があるかのように説明されることがありましたが、現行条文は「使用者からの」と明記しています。

契約社員でも2週間で辞められますか?

民法627条は期間の定めのない雇用についての規定です。有期契約の場合は原則として期間の満了まで働くことが前提になるため、同じようには扱えません。ただし、やむを得ない事由があるときのほか、労働基準法137条により、期間が1年を超える有期契約を結んだ労働者(同法14条1項各号に規定する労働者を除く)は、その契約期間の初日から1年を経過した日以後には、使用者に申し出ることによりいつでも退職できます。契約社員・派遣社員の退職については別の記事で扱っています。

引き継ぎが終わらないから辞めさせないと言われました

退職の意思表示は、相手方に到達すれば効力が生じます。会社の承認が要件になっているわけではありません。引き継ぎが終わらないことを理由に退職そのものを阻止することはできません。ただし、引き継ぎを一切せずに去った結果として現実に損害が生じた場合に、損害賠償の議論が起きることは別問題としてありえます。可能な範囲で引き継ぎ書を残しておくことが、自分を守ることにもつながります。

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