インタビュー対象者プロフィール

  • 名前: 伊藤 雅之さん(仮名)
  • 年齢: 31歳
  • 経験年数: 自衛隊9年(曹まで昇任)
  • 勤務先: 自衛隊 部隊
  • 現在: 建設会社の現場監督として勤務

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Q: 自衛隊での生活と結婚の両立は難しかったですか?

非常に難しかったです。入隊当初は営内居住(駐屯地内の寮生活)で、結婚してからは営外居住(自宅から通勤)に切り替えました。しかし、演習や訓練が入ると数日〜数週間、家を空けることになります。災害派遣の要請があれば、いつ呼び出されるかわかりません。妻にはかなり負担をかけていました。

Q: 退職を考え始めたきっかけは何でしたか?

妻の妊娠がわかった時です。初めての子どもで、妻はつわりがひどく、一人で過ごす時間が多いことに不安を感じていました。ちょうどその時期に大規模演習が入り、2週間家を空けることになりました。妻から「もう限界。一人で出産も育児もする自信がない」と泣きながら電話がかかってきた時、「このままではいけない」と思いました。

Q: 自衛隊内での家庭支援制度はなかったのですか?

育児休業の制度はありましたが、男性自衛官が取得するケースはほとんどありませんでした。「男が育休を取るのか」という空気が強く、上官に相談しても「奥さんの実家に頼れないのか」と言われるだけでした。時短勤務も制度上はありますが、演習や当直免除にはならないので、実質的に意味がありませんでした。

Q: 退職の意思を上官に伝えた時の反応は?

小隊長に「家族のために退職したい」と伝えたところ、「お前ほどのキャリアでもったいない」「あと数年で上級曹長を目指せるのに」と引き留められました。中隊長との面談でも同様の反応でした。しかし、「家族を守れない自衛官に、国を守る資格はない」と自分なりの結論を出していたので、意思は変えませんでした。

Q: 退職願の手続きはどのように進みましたか?

退職願は連隊長宛に提出しました。手続き自体は定型の書式に記入して提出するだけですが、複数回の面談が必要で、退職の意思を伝えてから退職日まで約3か月かかりました。退職日は妻の出産予定日の1か月前に設定し、出産に立ち会えるようにしました。

Q: 退職後の転職活動はどうでしたか?

自衛隊で培った土木・建設の知識と、大型車両の免許を活かして、建設会社の現場監督職に転職しました。就職援護の制度を利用して、退職前から面接を受けていました。建設業界は人手不足なので、自衛隊出身者は歓迎されました。

Q: 退職後の家庭生活はどう変わりましたか?

劇的に変わりました。毎日家に帰れる、休日が決まっている、急な呼び出しがない。当たり前のことですが、自衛隊にいた頃は当たり前ではなかったんです。妻の出産にも立ち会えましたし、子育ても積極的に参加できています。妻からは「退職してくれて本当に良かった」と言われました。

Q: 年収や待遇面での変化はありましたか?

年収は自衛隊時代の約420万円から約450万円に微増しました。ただし、自衛隊にあった官舎(安い住居費)や被服の支給がなくなったので、実質的にはほぼ同等です。建設業界は残業が多い時期もありますが、自衛隊の演習に比べれば予定が立てやすく、家族との時間を確保しやすいです。

Q: 家庭の事情で退職を考えている自衛官にアドバイスをお願いします。

自衛隊は「国防が最優先」という組織文化があり、家庭の事情を理由に退職することに罪悪感を持つ人も多いです。でも、家族あっての仕事です。退職は「逃げ」ではなく、家族を守るための前向きな選択です。転職先は自衛隊のスキルを活かせる業界(建設、物流、警備、消防設備など)が豊富にあります。退職前に地方協力本部の就職援護を積極的に利用し、退職後のキャリアプランを具体的にしておくことをおすすめします。