インタビュー対象者プロフィール
- 名前: 伊藤 恵美さん(仮名)
- 年齢: 33歳
- 経験年数: 歯科衛生士歴10年
- 勤務先: 歯科クリニック
- 家族構成: 独身、実母(70歳・要介護2)と同居
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Q: 介護が始まったきっかけは何ですか?
母が68歳のときに脳梗塞で倒れたんです。幸い命に別状はありませんでしたが、右半身に麻痺が残り、日常生活に介助が必要になりました。父はすでに他界していて、兄は遠方に住んでいるので、実質的に私一人で介護することになりました。
最初はデイサービスとヘルパーさんを利用しながら、フルタイムで働いていました。でも、母の状態が徐々に悪化して、要介護1から要介護2に上がり、目が離せない時間が増えていきました。
Q: 仕事と介護の両立で困ったことは?
一番困ったのは、急な呼び出しです。デイサービスから「お母さんが転倒しました」と電話が来ると、診療中でも抜けざるを得ない。でも、歯科衛生士の仕事は予約制で、私が抜けると患者さんに迷惑がかかる。
院長に時短勤務を相談しました。午前中だけの勤務に変えてもらったんですが、衛生士2人体制の医院で一人が午前中だけでは、午後の患者さんを院長一人でカバーしなければならず、大きな負担をかけてしまいました。
夜間も母のトイレ介助で何度も起きるので、慢性的な寝不足。患者さんの前では笑顔でいるけど、体力的にも精神的にも限界でした。
Q: 退職を決めた決定的な理由は?
ある日、母がお風呂で転倒して、私が仕事中に気づけなかったんです。幸い大きな怪我はありませんでしたが、「もし骨折していたら」「もし頭を打っていたら」と思うと、仕事中も気が気ではなくなりました。
介護サービスの利用限度額もあるし、ヘルパーさんを増やすと費用がかさむ。結局、「自分が仕事を辞めて介護に専念するしかない」という結論に至りました。介護離職はしたくなかったけど、母の安全には代えられませんでした。
Q: 院長への伝え方はどうでしたか?
院長には率直に「母の介護に専念するため退職したい」と伝えました。院長は以前から私の状況を理解してくれていて、「恵美さんの判断を尊重する。お母さんを大切にしてね」と言ってくれました。
ただ、衛生士2人体制で1人抜けるのは医院にとって死活問題。退職日は3ヶ月後に設定して、後任の衛生士を採用する時間を作りました。幸い、1ヶ月半で後任が見つかり、引き継ぎも十分にできました。
Q: 退職届の書き方で気をつけたことは?
退職届には「家庭の事情により」と書きました。「一身上の都合」でもよかったのですが、院長にはすでに事情を説明していたので、明確に記載しました。
宛名は院長名。手書きで丁寧に書いて、封筒に入れて手渡し。退職届のコピーは手元に保管しました。離職票の退職理由も「家庭の事情」になるので、失業保険の手続きでもスムーズでした。
Q: 退職後の生活はどうですか?
退職後は介護に専念しましたが、収入がゼロになるのは不安でした。失業保険を受給しながら、介護サービスのスケジュールを調整。母の状態が安定してからは、週2回だけ近所の歯科クリニックでパート勤務を始めました。
フルタイムに比べると収入は大幅に減りましたが、母と過ごせる時間が増えて、精神的には楽になりました。介護保険の制度をフルに活用して、ケアマネージャーさんと相談しながら、なんとかバランスを取っています。
Q: 介護と仕事の両立で悩んでいる方にアドバイスはありますか?
まず、一人で抱え込まないこと。地域包括支援センター、ケアマネージャー、介護保険サービスなど、使える制度は全部使ってください。兄弟がいるなら、早い段階で役割分担を話し合うべきです。
介護離職は最終手段です。退職する前に、時短勤務、介護休業(93日取得可能)、介護休暇(年5日)などの制度を確認してください。知らないだけで使える制度があるかもしれません。
それでも退職を選ぶ場合は、完全に離職するのではなく、パートやスポットでつながりを保つことをお勧めします。歯科衛生士は資格職なので、ブランクがあっても復帰しやすい。でも、完全に離れると感覚を取り戻すのに時間がかかります。
退職届は事務的に出せばOKですが、院長や同僚への感謝は忘れずに。いつか復帰するとき、元の職場が力になってくれることもあります。