# ハラスメントで職場を離れた元公務員が語る退職決断の経緯

座談会参加者

  • Xさん(38歳・元県庁 12年 セクハラ被害)
  • Yさん(41歳・元市役所 13年 パワハラ被害)
  • Zさん(33歳・元市役所 8年 モラハラ被害)

---

ハラスメントの実態

司会: ハラスメント被害はいつから始まりましたか?

X: 配置されて3ヶ月目です。課長がちょっとしたスキンシップが多い人で、肩を触ったり、腕を掴んだり。初めは「親睦」くらいに思ってました。でも、エスカレートしていった。定例会議の後、二人きりになると、膝に手を置かれたり。その時点で「これはセクハラだ」と認識しました。

Y: 私は人事異動後です。新しい課長が異常に厳しい人で、毎日叱責。些細なミスに対して「こんなこともできないのか」という否定的なコメント。定期的に1時間以上の説教。その中で「君はこの職場に向いていない」「数字がこれだけ悪いのは能力不足」という人格否定。これがパワハラだと気づくのに3ヶ月かかりました。

Z: 同期の係長からのモラハラです。毎日、仕事の重箱の隅をつつくような指摘。「なぜそんなやり方をした」「どうしてそう考えた」。報告・連絡・相談の全てが難癖の対象。プライベートの話題も「無駄な話」として排除される。人間関係を完全に遮断される状態が続きました。

---

相談機関の機能性

司会: ハラスメント相談窓口に相談しましたか?

X: 県の「ハラスメント相談窓口」に電話しました。でも、対応は期待外れ。「どのような状況ですか」と聞かれ、説明したら「今は控えめにして、様子を見てください」。控えめにしようがないんです。課長は毎日、なんらかのハラスメント行為を行っていた。

相談窓口は「双方の言い分を聞く」という立場をとります。つまり、被害者の訴え一つでは動きません。証拠が必要です。相談窓口の人は「今後、いつどこで何があったか、記録に残してください」と言いました。

つまり、ハラスメント被害者が自分で証拠を集めるんです。本来は、相談を受けた職場が「事実確認」をして「改善命令」を出すべき。でも、多くの公務員組織では「相談があったら記録して、被害者に『証拠を集めてください』と返す」という投げやりな対応です。

Y: 人事課に相談しました。「課長の指導が厳しすぎる」と。人事課の担当者は「課長も部下の育成のために厳しくしているのでは」と、課長側の言い分を推測。被害者の声よりも「上司の理由付け」を優先する。その時点で「この組織は被害者を守らない」と分かりました。

職員組合にも相談しましたが「管理職相手に交渉するのは難しい」と。つまり、労働組合も機能していません。公務員の組合は、民間の労働組合ほど力がないんです。

Z: 労働基準監督署に相談しました。「これはモラハラに該当する可能性がある」と言われ、「公平委員会への措置要求」という道を教えてくれました。公平委員会というのは、公務員の労働条件の不公正に対する救済機関です。

措置要求を出すと、公平委員会が事実確認をして「改善命令」を出す、という仕組み。ただ、その手続きに3ヶ月かかる。その間も、モラハラは続きます。その3ヶ月が耐えられませんでした。

---

証拠の記録

司会: ハラスメント対抗に「証拠」は重要ですか?

X: 極めて重要です。セクハラは「言った言わない」の世界です。証拠がないと、相談窓口は動きません。

  • 日付、時刻、場所
  • 課長の言動(「腕を掴まれた」など)
  • 他の目撃者がいるか
  • その時の自分の言動

その記録を、スマートフォンのメモアプリに毎日つけていました。1ヶ月で20件以上の記録。その記録を人事課に持って行きました。

Y: メールの記録を取っていました。課長から送られてくるメールの中に「あなたの能力では無理」「こんなレベルの仕事をしている場合か」という人格否定的な表現がありました。メールは痕跡が残ります。その複数のメールを人事課に提出しました。

ただ、言葉でのパワハラは記録が残りません。説教の内容を、その日のうちにメモに書いて、日付を入れて保管していました。

Z: 同期との対話をボイスレコーダーで録音していました。「コンプライアンス的にはグレーゾーン」ですが、証拠がないとハラスメントは認定されません。その録音を、人事課には提出しませんでしたが(同意なく録音するのは違法の可能性がある)、弁護士に相談する際には提示しました。

---

退職への決断

司会: ハラスメント対抗と退職のどちらを選びましたか?

X: 対抗しました。証拠(日記のような記録)を人事課に提出し、「課長のセクハラ行為を確認してほしい」と要求しました。人事課は「事実確認」という名目で、課長に直接「セクハラ疑いについて聞いた」ことを、私に伝えてきました。

つまり、被害者の申告→課長への事実確認、という流れで、「通知」されるわけです。当然、その後、課長との関係は最悪になります。「俺を告発した」という被害者意識の逆転。職場の雰囲気も悪くなります。

その後、人事課の調査では「セクハラに該当するかは微妙」という結論。証拠のレベルが「日記」では足りず、「第三者の証言」が必要だったんです。でも、課長の行動を目撃した同僚は「課長のキャリアに傷がつくから証言したくない」という理由で協力しませんでした。

結局、「セクハラ認定」は得られず、課長への改善命令も出ませんでした。代わりに「課長の配置を変更する」という落としどころに。つまり、課長は「セクハラ認定」されずに済み、単なる「異動」で処理されました。

その後、その課長は別の課に異動。別の課でも同じことをしている、という情報が後から入ってきました。

---

弁護士相談と法的対抗

Y: 弁護士に相談しました。「パワハラの証拠がある」という理由で。弁護士からは「二つの道がある」と言われました。

一つは、「公平委員会への措置要求」。これは行政上の救済。パワハラが認定されれば、課長への改善命令が出ます。

もう一つは、「損害賠償請求」。パワハラによる精神的苦痛に対して、課長個人と市に対して賠償請求する民事訴訟です。その場合、給料の2ヶ月分程度の賠償が見込める。でも、訴訟は半年以上かかり、精神的な負担も大きい。

弁護士は「どちらを選ぶかは、あなたの優先順位次第」と。

私は「改善命令による市役所での継続就業」を望んでいました。でも、現実的には「パワハラ認定を得ると、職場の人間関係が完全に壊れる」ことが見えました。

結局、「損害賠償請求」も「公平委員会への措置要求」も出さず、退職を選びました。

---

退職後の心身の回復

Z: 退職して3ヶ月で、初めて眠れるようになりました。モラハラによる不眠症があったんですが、退職直後は逆に眠すぎた。心身が休息を求めていたんでしょう。

その後、心療内科に通院。「適応障害」の診断を受けました。治療には半年かかりました。

経済的には、退職金160万円と失業保険で何とかなりました。ハラスメント被害は「正当な理由のある自己都合退職」として認められ、失業保険の給付制限がなかった。月額18万円が5ヶ月間。その間に、転職活動をして、現在はNPOで働いています。

X: 退職後、セクハラによる「PTSD的症状」がありました。課長と同じ体格の男性を見るだけで、心拍数が上がる。その治療に1年かかりました。

「泣き寝入り」という気持ちもありました。課長はセクハラ認定されず、出世コース(異動先で管理職候補)にいます。その不公正さに対する怒りが、相当長く続きました。

でも、時間とともに「この怒りは自分を傷つけるだけ」と気づいて、手放しました。

---

「ハラスメント被害での退職」は自己都合か

ここで重要な法的知識:

ハラスメント被害での退職は、通常「自己都合退職」とされます。しかし、以下の場合は「正当な理由のある自己都合退職」として扱われることがあります:

  • 職場からの不当な扱いが「客観的に明白」である場合
  • ハラスメント相談窓口や人事課に「相談の記録」がある場合
  • 医師の「ハラスメント由来の心身の不調」診断がある場合

その場合、失業保険の給付制限(3ヶ月)がなくなり、即座に給付が受けられます。

---

公務員へのアドバイス

X: ハラスメント相談窓口は、被害者を守るための機関ではなく、「相談を記録するための機関」だと理解してください。相談しても、直ちに改善は期待できません。

Y: 証拠を集めてください。日記、メール、ボイスレコーディング。その証拠をもって、外部の弁護士に相談してください。公務員の相談窓口ではなく、市民向け弁護士相談です。

Z: ハラスメント被害は、心身に深刻なダメージをもたらします。「退職=逃げ」ではなく、「自分の心身を守るための戦略的撤退」です。その判断を後悔しないでください。

退職届の作成は、このサイトのテンプレートが助けになります。