施設長や主任からのパワハラに悩み退職を考えている介護士の方へ、証拠の残し方と退職の手順を解説します。
介護施設で多いパワハラの事例
厚生労働省は、パワーハラスメントを「職場において行われる、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義しています(労働施策総合推進法第30条の2)。
介護現場の典型的なパワハラ6類型
| 類型 | 介護現場での具体例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 物を投げつける、胸ぐらをつかむ |
| 精神的な攻撃 | 他の職員や利用者の前で怒鳴る、人格否定 |
| 人間関係からの切り離し | シフトを意図的に孤立させる、申し送りから外す |
| 過大な要求 | 1人で夜勤フロアを2つ担当させる、休憩を取らせない |
| 過小な要求 | 介護業務を外して雑用のみにする |
| 個の侵害 | プライベートを執拗に詮索する、SNSを監視する |
証拠の記録方法
パワハラの証拠は、退職交渉、労災申請、会社都合退職の認定すべてに重要です。
録音
スマートフォンの録音アプリを使い、パワハラ発言を録音します。自分が当事者である会話の録音は違法ではありません(東京高裁平成28年5月19日判決等)。
- 事前にアプリを起動し、ポケットに入れておく
- パワハラが予想される面談やミーティング前に準備
- 録音データはクラウドにバックアップする
記録ノート
日々の被害を時系列で記録します。
- 日時: 2026年○月○日 ○時○分頃
- 場所: ○○(ナースステーション、事務室など)
- 加害者: ○○施設長 / ○○主任
- 発言・行為の内容:(できるだけ原文のまま)
- 目撃者: ○○さん、○○さん
- 自分の心身への影響:(不眠、食欲低下、動悸など)
メール・LINE等のやり取り
業務連絡でパワハラ的な内容があれば、スクリーンショットを保存します。送信日時が証拠になります。
医師の診断書
パワハラが原因で心身に不調が出ている場合は、心療内科・精神科を受診し、診断書を取得します。「職場のストレスが原因」と記載してもらえると、証拠として有効です。
退職届の退職理由の書き方
「一身上の都合」と書く場合
一般的には退職届の理由は「一身上の都合により」と記載します。パワハラの詳細を退職届に書く必要はありません。
「会社都合」にできるケース
以下に該当する場合、会社都合退職(特定受給資格者)として認められる可能性があります。
- 上司からのパワハラが原因で退職する場合
- 施設に改善を求めたが対応されなかった場合
- パワハラにより精神疾患を発症した場合
会社都合退職になると、失業保険の給付制限(2ヶ月)がなくなり、給付日数も最大330日に延長されます。
退職届への記載例
会社都合を主張する場合の退職届の文面:
> このたび、職場環境により業務の継続が困難となりましたので、令和○年○月○日をもちまして退職いたします。
労働基準監督署への相談手順
いつ相談すべきか
- 施設に改善を求めても対応されない
- 退職届を受理してもらえない
- パワハラにより心身に被害が出ている
- 労災申請を施設が拒否している
相談の流れ
- 1 最寄りの労基署を確認: 厚生労働省のWebサイトで管轄の労基署を検索
- 2 相談の予約: 電話で「パワハラについて相談したい」と伝える
- 3 証拠を持参: 録音データ、記録ノート、診断書などを持っていく
- 4 助言・指導の申し出: 労基署から施設への助言・指導を依頼できる
その他の相談窓口
- 総合労働相談コーナー: 各都道府県労働局に設置(無料・予約不要)
- 労働条件相談ほっとライン: TEL 0120-811-610(平日17:00〜22:00、土日祝9:00〜21:00)
- 法テラス: 法的問題の無料相談(TEL: 0570-078374)
退職までの具体的な手順
ステップ1: 証拠を十分に集める
最低でも1〜2ヶ月分の記録があると、パワハラの継続性を証明できます。
ステップ2: 外部に相談する
労基署や総合労働相談コーナーに相談し、今後の方針についてアドバイスを受けます。
ステップ3: 退職届を準備・提出する
証拠が揃ったら退職届を作成し、提出します。パワハラ加害者が施設長本人の場合は、法人本部や理事長宛に提出することも検討しましょう。
ステップ4: ハローワークで離職理由を確認する
離職票の離職理由が「自己都合」になっていた場合、ハローワークで異議申し立てを行います。証拠を提示すれば「会社都合(特定受給資格者)」に変更される可能性があります。
パワハラを受けながら働き続ける必要はありません。証拠を残し、適切な手続きを踏んで、自分自身を守りましょう。