利用者や家族からの暴力・暴言・セクハラに悩み退職を考えている介護士の方へ、対処法と退職手順を解説します。

介護現場のハラスメントの実態

厚生労働省の「令和4年度介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」によると、利用者や家族からハラスメントを受けた経験のある介護職員は全体の約50〜70%に上ります。

ハラスメントの種類

種類具体例
身体的暴力叩く、噛む、つねる、物を投げる、つかむ
精神的暴力怒鳴る、暴言、人格否定、差別的発言
セクシュアルハラスメント身体への接触、卑猥な発言、つきまとい

認知症の周辺症状(BPSD)による暴力も含まれますが、認知症であっても介護士が身体的・精神的被害を受けている事実は変わりません

退職を検討する前にやるべきこと

1. 記録を残す

被害の記録は退職交渉、労災申請、失業保険の手続きすべてに必要です。

  • 日時(年月日、時間帯)
  • 場所(居室、食堂、浴室など)
  • 加害者(利用者名または家族名)
  • 被害内容(具体的な言動を客観的に記述)
  • 目撃者がいれば氏名
  • けがの有無(写真撮影)

スマートフォンのメモアプリや日記帳に毎回記録しましょう。メールで自分宛に送信しておくと日時の証拠として有効です。

2. 施設に報告・改善を求める

記録を元に、上司や施設長に以下を報告します。

  • 被害の事実を具体的に伝える
  • 担当変更・配置転換を依頼する
  • 施設としての対策を求める(複数人対応、利用者への注意など)

報告した事実と日時も記録しておきましょう。改善が見られなかった場合の証拠になります。

3. 改善されない場合

報告後も施設が対策を講じない、または改善されない場合は退職を検討する正当な理由になります。

労災認定の可能性

利用者からの暴力でけがをした場合、労災保険の適用対象となります。

労災認定されるケース

  • 利用者に殴られて骨折・打撲した
  • 暴力によるPTSD・うつ病を発症した
  • セクハラによる精神疾患を発症した

労災申請の手順

  1. 1 医療機関を受診し診断書を取得
  2. 2 施設に労災事故の報告をする
  3. 3 労災保険の請求書類を作成(施設が協力しない場合は自分で労基署に提出可能)
  4. 4 労働基準監督署に提出

施設が労災申請に非協力的な場合でも、労働者本人が直接労基署に申請できます。

特定理由離職者として失業保険を有利に受ける

通常の自己都合退職では失業保険の給付制限(2ヶ月)がありますが、ハラスメントが原因の退職は「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当する可能性があります。

認定されるとどうなるか

項目自己都合退職特定受給資格者
給付制限2ヶ月なし(7日間の待期のみ)
給付日数90〜150日90〜330日
国民健康保険料通常額最大2年間軽減

認定に必要なもの

  • ハラスメントの記録・証拠
  • 施設への報告と改善要求の記録
  • 医師の診断書(精神疾患の場合)

ハローワークで離職理由の異議申し立てを行い、証拠を提示することで認定されます。

退職届の書き方と退職手順

退職届の理由

退職届には「一身上の都合により」と記載するのが一般的です。ハラスメントの詳細は退職届には書きません。

ただし、施設側の安全配慮義務違反が明らかな場合は、「職場環境の改善が見込めないため」と記載することで、会社都合退職として処理される可能性が高まります。

退職の手順

  1. 1 ハラスメントの記録と証拠を整理する
  2. 2 施設への改善要求の記録を保管する
  3. 3 退職届を作成する
  4. 4 施設長に面談を申し入れ、退職の意思を伝える
  5. 5 退職届を提出する(コピーを保管)
  6. 6 ハローワークで離職理由の確認・異議申し立てを行う

相談窓口一覧

  • 労働基準監督署: 労災申請、労働条件の相談
  • 総合労働相談コーナー: 各都道府県労働局に設置、無料
  • 法テラス(日本司法支援センター): 法的トラブルの無料相談(TEL: 0570-078374)
  • みんなの人権110番: 法務省の人権相談(TEL: 0570-003-110)

我慢し続ける必要はありません。記録を残し、適切な手順を踏んで、自分の心身を守りましょう。