体験者プロフィール

  • Nさん(35歳)
  • 経験年数:12年(私立認可保育園と公立保育所の経験あり)
  • 前職:公立保育所の主任保育士
  • 現状:療養中(退職から現在8ヶ月)

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保育士の身体的負担

保育士は、身体を酷使する職業です。

朝から晩まで、子どもを抱っこしたり、抱き上げたり、しゃがみ込んだり。0歳児クラスなら、10時間で数百回の抱っこがあります。1歳児クラスなら、転倒防止のために子どもの側を常に見守る姿勢。2歳児クラスなら、走る子どもを追いかける。

この繰り返しが、積もり積もって身体を破壊します。

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腰痛の発症と悪化

私は入職から3年目で、腰痛が発症しました。当時は「子どもを抱っこしすぎたから」と簡単に考えていました。整骨院に行ったら、「筋肉の疲労。休めば治る」と言われました。

でも治りません。

5年目には、夜中に腰の痛みで目覚めるようになりました。朝起きるのが辛い。子どもを抱き上げるときに、声が出てしまうほどの痛み。

医者に行ったら、「腰椎椎間板ヘルニア」の診断でした。医者は「デスクワーク中心の仕事に変わるか、しばらく休職した方がいい」と言いました。

でも保育士の仕事は、デスクワークに変わりません。管理職や事務職に異動しない限り、毎日子どもを抱っこします。異動の道もありませんでした。

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持病の悪化

実は、腰痛だけじゃなく、持病もありました。膠原病の一種で、ストレスと疲労で症状が悪化します。

入職当初は、月1回の通院で済んでいました。でも3年目から、月3回通院が必要になりました。5年目には、毎週通院。症状は進行していました。

医者からは、「ストレスを減らしてください」「疲労を避けてください」と言われました。でも保育士の仕事は、ストレスと疲労そのもの。その中で「ストレスを減らせ」というのは、矛盾しています。

8年目。症状が悪化して、入院治療が必要になりました。入院中に、医者から言われました。「この仕事は、あなたの病気を進行させます。仕事を辞めるか、業務内容を大きく変えるか。どちらかです」

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苦悩と決断

12年間の保育士キャリア。その間に、「この仕事を辞めるなんて」という思い込みがありました。

「子どもが好きだから、続けるべき」「保育士不足だから、辞めるべきではない」「12年キャリアを棒に振ってはいけない」

その思い込みが、私を縛っていました。

でも、入院をきっかけに、ものが変わりました。医者が「『子どもが好き』『保育士不足』を理由に、自分の人生を後回しにするのか」と聞きました。

その時、「あ、これは私の人生だ」と思いました。

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退職の手続き

12年目の秋。園長に「医学的な理由から、退職を考えております」と伝えました。

園長は「休職という選択肢もある」と勧めてくれました。ありがたい提案でしたが、「休職しても、復帰できるだけの身体ではない」と医者に確認していたので、お断りしました。

退職届は、医者の診断書を添付して提出しました。法人には「健康上の理由」と記載しました。詳細な病名は、プライベートな情報なので。

退職は年度末の3月。3ヶ月の間に、引き継ぎをしました。主任業務は副主任に、クラス運営は新人主任保育士に。マニュアル作成も丁寧に行いました。

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退職後の療養と現状

退職から8ヶ月。今は療養に専念しています。

医学的には、「急性期を脱した」という段階。腰痛については、理学療法で改善している。膠原病についても、ストレスがなくなったので、症状が落ち着いている。通院は月1回に減りました。

生活は、退職金と失業保険で支えています。夫の給与だけでも生活はできますが、経済的には厳しい。でも「身体を壊すまで働く」よりは、「今は療養に投資する」という選択をしました。

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医学的背景と保育士の身体負担

保育士が身体を壊す理由は、構造的です。

  1. 1 重い物(子ども)を頻繁に持ち上げる
  2. 2 不自然な姿勢(しゃがみ込み、前かがみ)の繰り返し
  3. 3 長時間立ちっぱなし
  4. 4 精神的ストレス(ストレス自体が免疫疾患を悪化させる)

この全てが、毎日存在します。

医学的には、「腰痛が発症したら、その職業を続けるべきではない」というのが常識です。でも保育業界では、「腰痛も職業病として受け入れる」という空気があります。これは医学的に間違っています。

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今後のキャリア

現在、完全復帰のタイミングを検討しています。医者は「2年程度は、通勤や立ち仕事を避けるべき」と言いました。

その後、どのような仕事をするのか。保育士として現場に戻るのか、別の業種に進むのか。まだ決まっていません。

ただ、「身体を壊す仕事は、もうしない」という決定は、固いです。

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他の保育士へのメッセージ

身体の不調は、「頑張りが足りないから」ではなく、「職業の特性」です。腰痛、膝痛、肩痛、あるいは精神疾患。保育士に多い不調は、たまたまではなく、職業構造が原因です。

もし身体に不調が出ていたら、それは「黄信号」です。「いつか治る」と思わず、早期に医者の診断を受けてください。そして、医者が「仕事を変えるべき」と言ったら、その判断を信じてください。

あなたの人生と身体は、保育園よりも大事です。