体験者プロフィール

  • 名前:佐藤 翔太(仮名)
  • 年齢:29歳(現在)
  • コールセンター勤続期間:7年
  • 退職からの経過:2年3ヶ月
  • 現在の職種:テクニカルサポート(チャットベース、時々電話あり)

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コールセンター退職までの道のり

7年間、受電オペレーターとして『クレーム対応』『高圧的な顧客への対処』を繰り返していました。

4年目から『電話の着信音が怖い』という症状が出始めましたが、『仕事だから慣れるだろう』と無視。

6年目に『受電音の直前に胃がキュッと縮む』『通話中に声が震える』という症状が顕著に。

医師から『適応障害による心理的ストレス』と診断されましたが『バックヤード業務に異動するか』という選択肢も提示されず、退職を決断しました。

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退職直後(1ヶ月~3ヶ月)

退職直後は『ようやく解放された』という達成感がありました。

しかし、退職から1ヶ月後、奇妙な症状が:

友人からの電話を『出たくない』という衝動

友人「明日、一緒に飲もう」という誘いを電話で受けても、『電話に出ろ』と言われているような圧迫感。ついついLINEで『後で返す』と返信。

実家からの電話への過剰な恐怖反応

親が電話をかけてくると、スマホが鳴っただけで『クレーム電話がかかってきた』という錯覚。心拍数が上がり、手が震えます。

退職前は『親からの電話なんて平気』でしたが、コールセンターを辞めた後で『逆に』電話が怖くなりました。

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症状の悪化(3ヶ月~6ヶ月)

さらに時間が経つと、症状は悪化:

1. 着信音恐怖症 携帯の着信音(どの音色でも)を聞くと、反射的に『誰かに詰められるんじゃないか』と緊張。一度、着信音が鳴っただけで、30分は心が落ち着きません。

2. 他者の通話への過敏反応 カフェで隣の人が電話していると、『それは自分の電話ではないのに』『相手を怒らせたら大変』と他人事なのに不安になります。

3. 仕事での電話恐怖 退職から4ヶ月後、新しい職場(テクニカルサポート)に入社しました。面接で『チャットメインだが、時々電話もある』と説明されていたのに、実務で『電話対応があります』と言われたとき、その場で『やっぱり電話はできません』と申し出ようと思いました。

実際の初めての電話対応は、『震える手』『かすれた声』『何度も『申し訳ございません』と謝る』という状態で、顧客には『この人大丈夫か』と心配されました。

4. 夜間の睡眠障害 『明日、電話があるかもしれない』という不安で、夜間に目覚めます。毎日、夜明け前の3時~4時に『電話対応の悪夢』を見て起床。

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医学的診断:PTSD症状

3ヶ月経過後、心療内科を再度受診。診断は『PTSD(心的外傷後ストレス障害)』。

医師の説明:「7年間のコールセンター勤務で『電話=危険』という条件付けが脳にされました。退職しても、その『恐怖プログラム』は脳に残存。電話を見ると『逃げろ』という反射的反応が起きます」

  1. 1 認知行動療法(CBT)
  2. 2 段階的な曝露療法(少しずつ電話に慣れる)
  3. 3 抗不安薬の処方(6ヶ月~1年)

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回復プロセス(6ヶ月~2年)

回復には時間がかかりました:

6ヶ月~10ヶ月 心療内科での認知行動療法で『電話=危険ではない』という認知を少しずつ修正。同時に『友人からの電話に出る』という『宿題』を毎週出され、実践。

最初は『出たくない衝動』と『宿題をやらなきゃ』という葛藤でしたが、繰り返すうちに『あ、何ともなかったな』という経験が蓄積。

10ヶ月~15ヶ月 『電話への過敏反応』は相当減りました。ただし、『クレーム電話のような語気』『急いでいるような声』を聞くと、まだ緊張します。

新しい職場での電話対応も『震える手』『かすれた声』は解消されましたが、『細かい注意』『難しい案件』になると『昔のクレーム対応みたいだ』と感じ、緊張は残ります。

15ヶ月~2年 ほぼ日常に戻りました。友人からの電話は『普通に出られる』。実家からの電話も『え、何の用?』という平常心。

ただし『コールセンターに戻る』という状況を想像すると、まだ『吐き気』『不安感』があります。その職場には戻れません。

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現在(退職から2年3ヶ月)

テクニカルサポートの職で、チャットメインに戻してもらいました。『月1回程度の電話対応』という配置に。

電話はしていますが『通話は3分~5分以内』『顧客の怒声はない』という環境なので、メンタルは安定しています。

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後悔との向き合い

よく聞かれるのは「退職して後悔していますか?」という質問。

正直なところ:

退職自体は後悔していない。 コールセンターを辞めなければ、今ごろ精神疾患はさらに深刻化していたと思います。

ただし、退職後に電話恐怖症になったことは後悔している。 『その職を辞めるなら、違う職に行けばいい』と思っていたのに、脳に刻み込まれた『電話=危険』は、退職では消えません。むしろ『避けることで強化される』という悪循環に陥りました。

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電話恐怖症で苦しむコールセンター経験者へ

電話恐怖症は『あなたが弱いからではなく』『長期の電話対応による脳の学習』です。

治療には『認知行動療法』が最も有効。ただし、これは『数週間で治る』ものではなく『数ヶ月~1年以上』かかることを覚悟してください。

  1. 1 早期に医師の診断を得ること
  2. 2 同時に『声を使わない職場』に転職すること

『退職すれば治る』と思ってはいけません。退職は『必要な第一歩』ですが、その後の『治療と回復』が同じくらい大事です。

いま電話恐怖症がある方は、回復に時間がかかることを前提に、医療機関の支援を受けてください。